小沢による天皇陛下の政治利用

について、朝日新聞が1面2面を使って大きく取り上げ、どういう風の吹き回しかこれを批判しているので、記録しておく。
これが1面
http://www.asahi.com/politics/update/1211/TKY200912110473.html?ref=reca

岡田克也外相は11日の記者会見で、中国の習近平(シー・チンピン)国家副主席が天皇陛下と会見することを明らかにした。15日午前の予定。宮内庁は陛下の体調への負担と相手国への公平性の観点から、外国要人との会見は1カ月前までに打診するよう外務省に求めていたが、今回の打診は1カ月を切った11月26日。官邸側からは今月7日と10日に「首相の指示。日中関係の重要性にかんがみて」と強い要請があったという。

 宮内庁の羽毛田(はけた)信吾長官は11日午後、急きょ報道陣への経緯説明の場を設け、憲法下の象徴天皇のあり方にかかわる問題との懸念を表明した。

 習氏の日本滞在は当初予定より1日短い14〜16日で、14日午後に鳩山由紀夫首相と会談し、同日夜には首相主催の晩餐(ばんさん)会に出席する。

 外務省関係者によると、中国側から日中間のハイレベル交流の一環として、今年初めから「国家指導者」の来日を打診されていた。10月ごろに習氏のことであると中国側から説明を受け、あわせて天皇陛下との会見を希望していることも伝えられていた。

 中国の胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席は1998年に副主席として来日した際、天皇と会見している。このため、中国政府は、胡氏の有力な後継候補とされる習氏にも同様の対応を求めた。外務省は中国政府に対して、この「1カ月ルール」を説明。日程を早急に連絡するよう繰り返し申し入れてきたが、中国側からの具体的な日程連絡が遅れたという。

一方、宮内庁の羽毛田長官によると、外務省から宮内庁に初めて内々の打診があったのは11月26日。宮内庁はルールに照らし「応じかねる」と27日に返答したという。

 その後、12月7日に平野博文官房長官から羽毛田長官に電話で要請があった。断ると10日に再度電話で「総理の指示を受けての要請だ。ルールも分かるが、日中関係の重要性にかんがみてぜひお願いする」と強く要請を受けたという。

 羽毛田長官は「このルールの肝心なところは相手国の大小や政治的重要性で取り扱いに差をつけずにやってきた点だ。『ぜひルールを尊重してほしい』と官房長官に申し上げた」と強調。「現憲法下の天皇のお務めのあり方や役割といった基本的なことがらにかかわることだ」と述べた。

 天皇の政治的利用につながりかねないとの懸念を持っているのかとの質問に「大きく言えばそういうことでしょう」「陛下のお務めのありよう、役割について非常に懸念することになるのではないか」と述べ、「今後二度とあってほしくないというのが私の切なる願いだ」と異例の「訴え」を展開した。

 要請を最終的に受け入れたことについては「宮内庁も内閣の一翼を占める政府機関である以上、官房長官の指示には従うべき立場」とし、「誠に心苦しい思い。大変異例だが、陛下にお願いすることにした」と述べた。

 これに対し、鳩山首相は記者団に「1カ月ルールというのは存じ上げてはいた。しかし、1カ月を数日間切ればしゃくし定規でダメだということで、果たして本当に諸外国との国際的な親善の意味で正しいのか。私から官房長官に指示し、(陛下の体調と)両立できる解決はないかと申した」と説明。「政治利用という言葉は当たらないと考えている」と述べた。

さらに署名記事が次のように続く。

 鳩山内閣が、天皇が外国要人と会う際に宮内庁が守ってきた慣例を破った。「脱官僚依存」の立場からは問題ないのかもしれない。ただ、「天皇の政治利用」を封じるために積み重ねてきた慣例を変えれば天皇制の重大な変質につながりかねず、より慎重かつ厳密な対応が求められる。

 鳩山内閣は発足以来、政治主導を推進しようと、戦後政治のルールを見直してきた。宮内庁羽毛田信吾長官が主張する外務省と宮内庁の申し合わせ「1ヵ月ルール」も見直しの対象になるのだろう。

 歴代政権は、戦前の反省から、特定の政治勢力天皇の言動に関与することを禁欲的に自制してきた。1カ月ルールもその延長線上にある。首相官邸宮内庁が調整する際には官僚OBの官房副長官が仲介し、フィルター役を務めてきた。鳩山首相が「政治主導」の観点から、宮内庁に任せてきた領域にまで踏み込むとしたら、判断の根拠を説明し、新たな透明・公正なルール作りをする必要がある。

 疑問が残るのは、鳩山首相が会見を要請した時期が遅かった点だ。訪中を控えた民主党小沢一郎幹事長らに配慮したとしたら、政治領域に天皇を巻き込む、まさに「政治利用」だ。天皇の国事行為には内閣が責任を負う以上、明確に説明する義務がある。

2面では羽毛田長官の一問一答(要旨)があり、見出しは「二度とあってほしくない」

 天皇陛下と中国の習近平(シー・チンピン)国家副主席の会見が決まった経緯に関する羽毛田信吾宮内庁長官の説明の概要と、主な一問一答は次の通り。

      ◇

 【長官による経緯説明】

 両陛下の外国賓客の引見については、引見希望日が迫った形で願いが出てまいりますと日程調整に支障をきたす。そういうことがなくても繁忙をきわめる両陛下に想定外のご負担をおかけすることになる、と考え、1カ月以上前に、内閣(外務省)から願い出をいただくことをルールとしてやってきました。

 とくに2004年以降は、前年に陛下の前立腺がんの手術もあり、陛下の負担や年齢も考慮して、ルールをより厳格に守っていただきたいと政府部内に徹底してきたところです。

 このルールの肝心だと思っているところは、国の大小だとか、この国が大事でこの国は大事ではないという政治的重要性で取り扱いに差をつけることなくやってきた点です。米国は大事だから米国の賓客には1カ月以内でも会うとか、某国はそれほど大事じゃないから厳格にルールを守りましょうとか、そういうことをしない形でやってきた。

 両陛下のなさる国際親善は、政府の外交とは次元を異にし、相手国の政治的な重要性とかその国との間の政治的懸案があるとか、そういう政治判断を超えたところでなされるべきものだという考え方です。従って今回は、現在の憲法下における天皇陛下のお務めのあり方だとか、役割だとかいった基本的なことがらにもかかわることと思っているわけです。

 今回、外務省を通じて内々に宮内庁の窓口に打診をされてきたのは1カ月を切った段階でしたから、ルールに照らし、お断りをした。その後、官房長官から、ルールは理解するが日中関係の重要性にかんがみてぜひお願いするという要請があり、私としては、政治的に重要な国だとかにかかわらずやってきたのだからぜひルールを尊重していただきたいと申し上げました。

その後、再度、官房長官から、総理の指示を受けての要請という前提でお話がありました。そうなると、宮内庁も内閣の一翼をしめる政府機関である以上、総理の補佐役である官房長官の指示には従うべき立場。大変異例なことではありますが陛下にお願いした。が、こういったことは二度とあってほしくないというのが私の切なる願いです。

 【報道陣との質疑】

 ――陛下の政治的利用につながりかねないとの懸念を持っているということですか。

 大きくいえば、そういうことでしょう。個別に政治的懸案があるからこうしよう、という形でやっているわけではないわけですから。

 ――1カ月というルールの根拠は何ですか。

 日が迫って日程を入れるほど大きな支障を生じる。今はお年も召され、手術もしている。それで、ひとつの常識として1カ月でやってもらおうということでやってきた。

 大事なのは、それでやりましょうとみんなが守ってきた時に、中国は政治的に大事だからこうしましょうとなるのは、つらい。政府のありようとしては、それじゃうまくないのではと申し上げたつもりです。

 ――政治利用に関して、もう少し具体的に。

 そういうことを超えたところで外国のおつきあいをなさるのが陛下の国際親善のありようだと。それを政治的な重要性だとか懸案があるからということでしたら、それを一言でいえば政治利用でしょうけれど、政治利用という言葉で言うだけではなくて、やはり天皇陛下のお務めのありよう、あるいは天皇陛下の役割ということについて非常に懸念することになるのではないでしょうか、と。政治的利用ではないかという懸念ではないかと言われれば、そうかなという気もしますね。

鳩山の談話は次の通り。

(会見を宮内庁に要請したのは民主党の)小沢幹事長から話があったわけではない。
1カ月ルールは存じ上げていた。
しかし、1カ月を数日間切れば、しゃくし定規でダメだということで、果たしてそれが本当に諸外国との国際的な親善の意味で正しいのか。当然、天皇陛下のご体調のことは一番気にしなければならないが、差し障りのない範囲で、できるだけ会っていただければという思いがあったので、官房長官に指示し、できれば両立できるような解決はないかと申したところだ。
諸外国と日本との関係をより好転させるための(会談を)天皇陛下とできれば、という話だから、政治利用という言葉は当たらないと考えている。

全部逆に取って間違いなさそう。
2面トップ記事は大見出しで「首相「ルール破り」なぜ」

「二度とあって欲しくない」。中国の習近平国家副主席と天皇との会見が、首相官邸側の意向によって慣例を破ってセットされたことについて、宮内庁羽毛田信吾長官(67)が厳しい言葉で批判する異例の事態となった。鳩山由紀夫首相は取り合わない姿勢だが、憲法上の天皇の役割にからむ問題だけに、影響は尾を引きそうだ。
首相官邸宮内庁の異例の対立のきっかけは、宮内庁の「1カ月ルール」だった。
天皇と海外要人との会見の申し入れは少なくとも1ヵ月前までに行うというルールだ。2003年、天皇前立腺がん手術を受けたのをきっかけに、厳格な適用を外務省に文書で要請していた。
習副主席と天皇の会見は、ルールを適用すれば、実現しないはずだったが、首相官邸は2回にわたる宮内庁の拒否を押し切って、会見を実現させる。
羽毛田氏によると、外務省からの最初の打診は先月26日。来日予定は今月14日。「応じかねる」と打ち返した。
事態はこれから動き始める。今月7日、首相が平野博文官房長官に伝えた。「何とかこれ、できないだろうか」
首相の意向を受け、平野氏が羽毛田氏に電話を入れた。
日中関係において非常に重要な人物だ。天皇陛下のお体が許す範囲で面会できるようにやってもらいたい」
政権交代前は、宮内庁とのやりとりは官邸事務方の役割だった。05年4月、長官に就任した羽毛田氏は旧厚生省出身。官邸事務方の要とも言える首席内閣参事官の経験もある。政官の役割分担に通じた羽毛田氏にとって、官房長官からの直接の電話は、「政治の圧力」と受け止められたとみられる。ただちに「国の大小とか、政治的に重要だとかにかかわらずやってきた。ぜひ(ルールを)尊重して頂きたい」と反論したという。
平野氏は認めていないが、羽毛田氏によると、10日に改めて平野氏から電話があった。「首相の指示を受けての要請だ」。羽毛田氏は折れた。
1ヵ月ルールについて首相は11日、「数日間足りなければしゃくし定規でダメだということで、国際的な親善の意味で正しいことなのか」と述べ、柔軟な運用に理解を求めた。
しかし、羽毛田氏にとって、ことは単なるルールの問題ではない。11日、記者団に「国の政治的案件に天皇陛下を打開役に(起用する)ということになったら、憲法上の陛下のありようとは大きく違うことになる」。「天皇の政治利用」につながりかねないとの危機感をあらわにした。
確かに、首相の言動を追うと、「国際親善」という動機に疑問が出てくる。首相が平野氏に指示したのは、「数日間足りない」どころか、習氏来日のわずか1週間前。首相はなぜ、そんな時期に会見実現を指示したのか。
背後にかいま見えるのが民主党の影だ。4日には訪中を控えた民主党小沢一郎幹事長が首相公邸で首相と会談している。
首相は11日、「小沢幹事長から話があったわけではありません」と関与を明確に否定した。ただ、民主党幹部によると、中国側の党側への打診は早かった。中国側が小沢氏らに、天皇との会見を希望していると伝えてきたのは11月後半。同月20日には、中国の楊潔○外相が小沢氏を訪ね、習氏の来日予定を説明した。今月9日には、崔天凱駐日中国大使が小沢氏に「副主席を陛下と会わせてほしい」と懇願したという。平野氏が羽毛田氏に2度目の会見要請の電話を入れたのは翌10日だった。
政府関係者は「首相は9日ごろには会見ができないことを納得していたはずだ」と証言する。党側の意向が官邸を動かしたとの推測だ。

小田部雄次教授は「筋通った説明必要」

歴史的に見て、皇室による外国の来賓対応は政治的に左右されやすい面を持っている。国同士のかかわりである以上、政治的な要素が入らないということは難しい。今回のケースも中国との歴史的な関係を考え、要請があったのだと思われる。だが「1ヵ月前」というルールを決めている以上は、日本は法治国家であり、内規とはいえ、守られるべきだ。中国との関係を深めることは大切だが、他の国から同じような要請があった場合はどのように判断するのか。整合性が取れなくなるし、一度例外を作ると、今後恣意的な政治利用が行われる危険性がある。官房長官宮内庁長官の懸念に対して筋の通った理由を説明する必要がある。

この官房長官にそんな思慮などあるはずもなく。
中国は大喜びだそうだ。

「日本政府からは外交ルートを通じて、99%実現が難しいと言われていただけに、大変喜ばしい。鳩山政権が中日関係を重視していることの表れだろう」。あきらめかけていた習副主席と天皇陛下との会見が実現することを中国外務省関係者は歓迎している。
日中関係筋によると、両国政府が習氏訪日について本格的な実務協議を姶めたのは11月に入ってから。中国政府は日本側に対し、鳩山首相だけでなく天皇との会見を望んでいた。しかし、毎年12月には来年の経済運営方針を決める中央経済工作会議があり、習氏を含む指導部メンバーは必ず参加する。その日時が確定しなかったため、会見日程が決められなかったとされる。
中国にとっても天皇は特別な存在だ。胡錦濤国家主席も、国家副主席になったばかりの98年に訪日した際、天皇と会見している。
習氏は2007年の共産党大会で、最高指導部である政治局常務委員に抜擢され、翌08年3月には国家副主席に就任。党総書記、国家主席である胡氏の最有力後継候補となった。順当にいけば、次の党大会が開かれる12年から10年間にわたり、中国の最高指導者を務めることになる。
ただ、9月にあった共産党中央委員会の全体会議では、次期最高指導者になるための重要なステップとされる党中央軍事委員会副主席への選出が見送られた。「実績がまだ足りず、時期尚早」(党関係者)と判断されたとみられ、実績づくりが求められている。今回の訪日を通じて内外で権威を高めたい習氏にとって、胡氏の前例を踏襲する形での天皇との会見は「ポスト胡への追い風」(党関係者)とみられている。