A・I・ヴィシンスキー

ジョセフ・E・パーシコ『ニュルンベルク軍事裁判 上』原書房より

ヴィシンスキーはグラスを飲み干していった。「ウォッカは人類の敵です。平らげなければいけません!」招待客たちは歓声をあげ、彼のあとにつづいた。その後、彼はお互いに法曹であることに触れ、意見を率直に述べられる職業についた自分たちはたいへんに幸運であるが、それに比べると外交官たちの振舞いなどは「まるで鎖につながれた犬ですな」といった。大きな笑い声が起こった。ヴィシンスキーが再び満たしたグラスを持ちあげていう。「こんどは被告人に対して乾杯したい」会場が静まりかえった。ヴィシンスキーがつづける。「こんどの火曜日に裁判にかけられる被告全員が有罪になることを願って」オレグ・トロヤノフスキーはばつが悪そうだったが、そのまま英語におきかえた。ヴィシンスキーがまたいった。「彼らのあゆむ道が、法廷からまっすぐ墓場につながっていますように」トロヤノフスキーが翻訳すると、いらだちを抑えたようなかすかな笑い声が聞こえてきた。パーカー判事がまわりにも聞こえるような声で、ストーリー大佐にささやいた。「罪がなんであろうと、証言も聞かないうちに、被告の有罪を願って乾杯などできるわけがないだろう」