重爆特攻さくら弾機

林えいだい『重爆特攻さくら弾機 大刀洗飛行場の放火事件』東方出版

NHK 戦争証言プロジェクト「重爆撃機 攻撃ハ特攻トス」の底本である。番組では完璧なまでにスルーされた新海希典のことも、この本ではちゃんと出てくる。新情報としては、倉澤参謀に対し「重爆を戦闘隊の隷下に入れたのは、指揮権の乱用じゃないか」と興奮してすごい剣幕でいたそうだ。

また機に放火をしたとして逮捕された朝鮮人山本伍長の最後についても載っている。憲兵隊は、取り調べもせず、戦隊の名簿を見て、朝鮮人であるというだけで山本伍長を逮捕していた。本人も含めて誰一人、逮捕前に事情聴取をされた者はいなかった。そのため戦隊の間でも、犯人は山本伍長ではないのではないかと考えるものが多かった。憲兵隊を訪ねた倉澤少佐は、伍長に明らかに拷問された跡があるのを認めた。伍長がその後どうなったかについて、倉澤は著者に「日本国内から出国することを条件に」戦後釈放され、朝鮮に帰ったそうだと語った。彼は放火事件の後、鉾田に転任していたので、本当にそう信じていたのかもしれない。著者もそれを聞いて一安心した。しかし現実は厳しい。実際は山本伍長は20年8月9日に六航軍によって銃殺されていた。場所は油山。彼に続いて米国の俘虜が次々と処刑された。世に有名な油山事件である。筆者はこの事実をある本で偶然見つけて驚いて大声をあげたそうだが、それを読んでこっちも驚いた。なぜならその本というのが、以前このブログでも取り上げた上野文雄『終戦秘録 九州8月15日』だったからだ。そう言われれば、確かにそんな記述もあったなと思うが、番組を見ているときは、この本のことなど毫も思い浮かばなかった。全くお恥ずかしい限りである。