写真の話

秋葉原の事件の話をあちこちで読んで何となく思い出した。高木健夫の『新聞記者一代』に次のような話が載っている。

 諸君は、つぎのような「伝説」を御存じであろうか?
ロマンチックな心中をしたさるお嬢さんのお通夜の席に、頭の禿げ上がった紳士がもっともらしい表情でおくやみに来た。そして霊前に焼香し、飾られた黒いリボンのついたその写真をみていたが、やがてさっと立ち上がってその写真をつかむやいなや、脱兎のごとく、逃げ出した。その写真が特ダネになったことはもちろんである……。
この「伝説」の主が鈴木竜二である。

鈴木は当時国民新聞の記者であり、江川事件のときのセリーグ会長。本宮ひろ志の『実録たかされ』にも出てきたはずだ。葬儀で遺影を盗むという話は、小説だが井上靖の『あすなろ物語』にも出てくるので、戦前は割りにあった話なのかもしれない。今なら特ダネどころか窃盗で逮捕だろうが。