大杉栄殺害

中島欣也『銀河の道 ”社会主義中尉”松下芳男の生涯』より

松下の同期生で、陸士生徒に長く歌い継がれた”学科嫌い”の歌の作詞者水島周平は、このころ軍職を退いていたが、甘粕事件について、「東京日日新聞」の「角笛」欄に投書をした。彼は幼年学校教育の中に、独尊、偏狭、狽介等の性格が生まれる芽があるとして、「今度の事件でもそのとおり、猿芝居の猿が、教えられたとおり、踊ったまでだ」と書いた。胸痛む思いで、松下は何度もこれを読み返した。

http://homepage3.nifty.com/meiyo47/s11-gunka/s142-GakkaGirai.htm

一 乞食袋を重そうに
喇叭の声で集まって
教室さしてゾロゾロと
行けば数学よ

二 シンコステータの三角が
やっと済んだと思ったら
座標、原点、放物線
これが解析か

三 理学博士じゃあるまいし
加速度なんか知るものか
頭が四角や三角に
なるは重学よ

四 釘かミミズか知らないが
頓珍漢の語学など
やっても役には立たないよ
俺はナポレオン
孔子孟子が酒飲んで
一杯機嫌でほら吹いた
でたらめなんか知るものか
いやな漢文じゃ
六 昔もむかし大昔
兼好法師や貫之が
寝言を書いた国文は
溶けた水飴か

七 紙が踊って球がとぶ
煙が出たり火が消える
俺らが見たらこの理化も
やはり切支丹

八 七千年の老いぼれが
ほんとらしく述べ立てる
誰が真面目に聞くものか
ひどいほら吹き奴

九 石が黒いも青いのも
さっぱり俺には無関係
この世の中に山河の
あるは当たりまえ

十 下手な理屈をこねまわす
三段論法帰納法
ギリシャの昔の馬鹿者が
遺したやくざもの

十一 大工や左官のまねをする
図学なんか要るものか
呑気な奴の仕事には
至極適当じゃ

十二 山の形や水の色
写真の便利も知らないで
珍しそうに紙に画く
画学は間抜け者
十三 忠孝仁義と今さらに
勿体らしく言うけれど
催眠術に違いない
直ぐに眠くなる

十四 世が逆さまになったならば
時文が役に立つだろう
この真ッ直ぐの世の中にゃ
まるで不必要

同書より今村均

今村は教育総監部勤務のとき、歩いている傷痍軍人を見ると必ず車を止めて乗せた。松下自身も何回か乗せてもらった。