「対馬丸」の無念映画で切々と

朝日21日朝刊

米潜水艦の攻撃で1400人以上の犠牲者を出した学童疎開船「対馬丸」を描いた映画「銀の鈴」が完成し、21日、大阪市で上映される。家族4人を失った西岡利美さん(83)は国が沈没の事実を隠そうとしたため、4人の死亡をいまだに公式に伝えられていない。「一人でも多くの人に、犠牲になった人のことを知ってほしい」と願う。
「こんな映画を作って下さって、ほんまにありがたい」。西岡さんは大阪市内で12日に開かれた試写会に招待され、監督の斎藤勝さん(50)に頭を下げた。 対馬丸は44年8月、那覇から1788人を疎開させようとして撃沈され、少なくとも1418人が死亡した。軍は生存者に「沈没したことは絶対に口外するな」と命令。子供の安否も分からず苦しむ親らを若手の俳優が演じる。
「母さんたちを疎開させた船が沈没したらしい」西岡さんは就職していた香川県・小豆島で終戦後、訪れた父から知らされた。父は母の形見の髪の毛十教本を握りしめていた。弟は2歳と7歳。妹は12歳。父もうわさで沈没を聞いただけだった。
家族4人は「失踪宣告」を受け、50年に死亡が確定。西岡さんは70歳を過ぎ、沖縄で慰霊祭が聞かれていると知った。訪れると生存者が少しずつ語ってくれた。「小さい子供がおったから、奥の方に追いやられていた。苦しかったろう」
斎藤監督の叔父も兵員輸送船の沈没で亡くなり、その船が対馬丸の僚船だったことが映画化のきっかけだった。「これからも事件を人々に訴える方法を考えていきたい」
21日午前11時と午後3時、大阪市天王寺区上汐5丁目のクレオ大阪中央の4階セミナーホールで。問い合わせは劇団ARKへ。

「戦争は社稷を危うからしめる」武藤章はそういって日米開戦に躊躇した。社稷も大事だ。しかし人々の命も大事だ。どちらが欠けてもこの国は成り立たない。
結局、誰も想像できていなかったのだろう。国土が戦場なることの悲惨さを。しかし戦後に生まれ21世紀を生きる私は知っている。