山守恭大尉

陸士54期

「長、きさまにたのみがある」
山守大尉がさし出したものを見ると、百円の紙幣であった。前線では用がないので、見ることも珍しかったが、意外な大金でもあった。
「おれは当番の兼見一等兵をいっしょにつれて行く。この金は、兼見の遺族に送ってやってくれんか。おれからの香典としてな」
それから、別に、封筒を取り出して、
「これは、おれの遺書と、遺髪と爪がはいっている。これだけは、なんとかして、おれのおやじの所へ届くようにしてもらいたい。たのんだぞ」

大尉は、長い間、ビシェンプールの町を見ていたが、
「あの、町の北の竹やぶの所、確かにあすこに、高等司令部がある。今でも、高級な自動車が出入りしているからな。おれは今夜、あすこに突入してみるつもりだ」

この時、山守大尉は、企図した通り、ビシェンプールの北端の竹やぶに向かって突入した。そこには、山守大尉の判断したように、連合軍の高等司令部があった。山守大尉は先頭になり、七十名の兵が一列縦隊になって斬りこんだ。司令部の周囲には鉄条網があり、そこを突破する時から、バリバリと撃たれた。
山守大尉は司令部の庭に突入し、集中火をあびながら、頑強にとりついていた。この果敢な奮戦に感じて、英印軍指揮官が投降を勧告した。だが、山守大尉は応じなかった。包囲していた機関銃砲は一斉に火を吹いた。
のちに、タイの首都バンコクで、第七インド師団長は、作間連隊長にこの時の戦況を語り、実に勇敢な隊長であった、と激賞を惜しまなかった。

高木俊朗『インパール

インパール戦 山守大尉、死の突撃 - There is a light that never goes out.