張作霖爆殺に関する中野正剛の追及

第五十六議会における中野正剛の質問はなかなか鋭く、国内でしか通用しない議論を振り回す人の多い現在にも充分通じるところがある。

(田中)中野君からいろいろお話がありましたが、私はここで本議場で申しますとおり、慎重に考慮してこれを調査しているという以外、べつにいう必要はない。あなたがいくらおっしゃっても、私はこれを慎重に考えている(「逃げるな」と呼ぶ者あり)。逃げはせぬ。
(中野)どこまでも調査一点張りで、深甚の憂慮をもってこの問題の推移を日本国のために考えている国民の代表の前になにもいわず、ただそれだけで押し通そうという御態度を私は奇怪に思う。あなた方は内地の新聞に出せば発売禁止、国民がこれをいえばお前は売国奴、議会でものをいわさぬ、これがあなた方の態度である。しかも外国人の宣伝、外国新聞の記事、これらに向かっては日本の国権は及びませぬが・・・外国の輿論、外国の新聞にたいしてはなんらの対抗手段も取らぬ。世界の主張の前には袋叩きに遭っても、日本の汚名を晴らすためになんらの努力もなさず、なす気概もない、われわれ国民は日本の総理大臣の田中さんの態度を遺憾千万に思う。私はこれほどの世界の風潮にたいしては、なにか応戦の考えがないか、いままでなさらなかったならば、調査を発表し、とにかく調査せる材料によって、世界に向かって日本の潔白を示すなんらかの行動を開始するのお心なきやということをお尋ねする。
(田中)答弁いたしませぬ。

猪俣敬太郎『中野正剛の生涯』より