岡田資『毒箭』

御殿場に御療養中の秩父宮殿下が、私の近況を御心配下さっているという事を家からの通信で見た。過ぐる彼岸の面会に妻からも聞かされて感謝している。私はまた、殿下の御容態を御案じ申し上げている。御祈り申し上げている。(中略)
その上、旧武官連中まで御心配の種を作っている、申し訳もない事だ。本間中将はバターンの責を取らされて刑死した。岡崎中将もジャバ今村軍司令官の参謀長として過般来共に死刑を求刑されたと新聞にあつた。彼等の後任武官たりしこの私が現在の如しだ。相済みませぬ。それにも拘わらず留守には度び度び御下問がある。また御殿場の御屋敷内の農産物を頂戴した事もある。
 遥かに合掌、一日も早く御山の雲が晴れますように。

本間雅晴もまた殿下の御回復を祈りながら逝った*1。今村*2と岡崎*3の死刑は、さすがにおかしいということで、田中隆吉*4などもキーナン検事に強く訴えたそうだ。岡崎清三郎は殿下に付いて渡英し、オックスフォードに学んだ。彼もまた中々骨のある人物だ。

 搭乗員処罰は単に一回の現行犯を以てしたのではない。
 取調べの結果、多きは二十回、少なくも七、八回の日本空襲体験者であった。而も彼等はその累犯当時、盲爆の不法行為たる事は、機上で実見した筈。又爆撃命令を受けたその瞬間でも、下士官以上には容易に其の行為が、不法行為たる事を察知出来た筈である。パンフレット取扱に関しても同様の事が云われる。即ち悪い事と知りつつ犯行を累ねた者だ。処罰に値すると思う。