謝礼と麻酔

最近のお医者さんは手術前の謝礼をあまり受け取らない。うちは4,5回「どうぞ」「いえいえ」を繰り返した後、ありがたく(?)引っ込めた。だが隣のベッドのお婆ちゃんはそう生易しくはなかった。5分くらい延々と粘った挙句、ようやく静かになったなと思ったら、点滴をしたまま、逃げだした先生を追っかけて行ってた。その後インターンだか看護師さんだかの若い男性に連れられ、部屋に戻ってきてからも、「先生に渡して」「明日頑張りましょう」という会話を機械仕掛けのように数分に渡って繰り広げていた。とにかく受け取ってもらわないと死んでしまうかのようなその執念たるや凄いものがあったが、結局お医者さんは受け取らなかった。後日どうなったかは知らん。でもこういう人ってこのおばあちゃんだけじゃないはず。年寄りには絶対多いと思う。
ところで何かの本で、近衛文麿の父霞山近衛篤麿が開腹手術を受けたときに、麻酔によって意識が混濁しあらぬこと(国家機密)を口走ってはいけないからと、お気に入りの力士に体を押さえさせて、麻酔無しで手術を受けたという話を読んだことがある。これを読んだときは「んな馬鹿な」と思ったが、しかし全身麻酔というのは案外馬鹿にならんようだ。というのも件のおばあちゃん、夜中もずっとお経をあげているらしい。勿論手術前はそんなことはなかったそうだ。