GONG格闘技10月号

中盤の柔道記事3連発が面白かった。

松原隆一郎

−−−選考過程で疑問の声も土がっていた谷亮子は3位に終わりました。指導を三つもらうという、全盛期ではありえない負け方でしたが。
「みんなポイント柔道がよくないと言うけど、ポイント柔道の世界一の大家は谷じゃないですか。僕は別に悪いとは思わないですが、日本柔道は一本を取るというのなら、谷を応援するのはおかしい(笑)。今回、谷の気持ちの中には、『組んだら勝てない』というのがあったんでしょうね。前の全日本選抜のとき組んで投げられたから、組めなかった。互いに組まずにゴールデン・スコアに持ち込んで、組んでくるところにカウンターを合わせる作戦のようでした。吉村先生は『策士策に溺れる』と評していましたが、まさにその通り。相手は組もうとしていて、谷が切っていた。国内の審判で谷のみ反則を取る人はいないけど、国際大会ではそんな”空気”の読み方はないということですね。」

−−−メディアでは、一本を狙う本来の柔道が失われたと嘆く声が聞かれました。特に普段柔道を見ていなさそうなテレビのコメンテイターたちは、口を揃えていましたね。
「一本勝ちを日本人だけが目指しているという話は嘘です。優勝者についてのデータを挙げます。男子では内柴と石井が3一本勝ち2有効勝ちですが、韓国のチェ・ミンホが五戦全一本勝ち、アゼルバイジャンのママドリが4一本勝ち1有効勝ちで、上回ります。女子は谷本が四戦全一本勝ち、上野が4一本勝ち1技あり勝ちですが、これに次ぐ中国勢も4一本勝ち1有効勝ち、4一本勝ち1僅差勝ち、3一本勝ち1有効勝ちで、遜色ありません。中国は十分、”一本を取る柔道”ですよ。それに今回、日本人は多くが一本を取られて負けているわけで、外国人は日本人に対して一本を取る柔道をやっている。だから、日本だけが一本勝ちを追求するというのはためにするプロバガンダだと思います」

柏崎克彦

−−−メディアでは、すぐ横文字の、”JUDO”云々という話になりますけども。
「だって、同じルールでやっているんだからね。金丸(雄介)が一本で負けた試合だって、ものすごく立派な払腰じゃない?別に変わった技術を使われたわけでもない。鈴木(桂治)はもろ手刈りで負けたけど、あのもろ手刈りは、きちっと入った正統派のもろ手刈りだったもんね」
−−−柔道の教則本に出て来るような、しっかりとズボンをつかんで引き上げるもろ手刈りでした。
「うん。もろ手刈りは日本古来の技術だよ。何でもかんでも『外国のポイント柔道に負けた』というのもおかしな話だと、俺は思うんだ。だって、みんな日本人で負けた奴は、きれいに一本負けばかりじゃない?そっちの話の方向に逃げるのはやめたほうがいいと思うな」
−−−それでもやはり世間的には『一本を取る柔道が日本柔道』みたいな物言いが説得力を持ってしまうようです。
「誰でも一本取りたいんだよ。一本を取れば、試合が終わるんだから。ただし、相手は体を捻ったり技が不完全だったりするから、結果として技有りになったり有効、効果になったりするわけで。はじめから効果を取ろうと技を掛ける選手はいないって」
−−−日本の柔道は特別だという意識が刷り込まれすぎている感じがします。
「謙虚に、外国人の技術を認めるべきところは認めていいと思うんだよね。だって、昔はタックルする選手はいなかったの?たくさんいたわけだよね。いまの人たちは小さな頃から柔道をずっとやっているけど、昔はレスリングから柔道に転向した人たちがたくさんいたんだよ。サンボからとか、いろいろな格闘競技から転向した人がいたし、昔の人のほうが個性があった。旧ソ連には肩車をする人がたくさんいたし、本当にタックルが上手な連中もいたけど、でも日本もそれなりに対応してきた。それで金メダルを獲ってきた日本人がたくさんいたわけだよね。いま若い選手がそういうのに対応できなくなっているというのは、あるかもしれないけど。」

奥田義郎

「当時の指導陣にも代表級選手にも寝技に対する真剣さが足りなかったと思いますよ。本気で寝技を学ぼうとしよったのは岡野君だけでした。だから岡野君の寝技はあれから伸びたんですよ。他の人たちは投げれば勝つんだからそれでいいやという程度の考えです。でも当時の日本柔道の風潮がそんな感じだったから選手個人個人が悪いわけじやないんですがね。寝技の稽古時間がきたからやらないかんなという程度です。だからちっとも強くならんかった。もう本当に簡単に取れたんですから。ある時、猪熊さんを抑え込んでたら『奥田、ちょっとちょっと』ちゆうんです。どうしたのかなと思ったらマスコミの連中が来てたんですね。それで上にならせろと言って自分が上になって抑え込んでいるところを見せるんです。まあ、その程度の寝技への取り組みでしたね」

神永さんがヘーシンクに袈裟で抑えられた時の逃げ方見ておって涙が出ましたよ。ぜんぜんおかしな逃げ方してましたから。あれじゃあ絶対に逃げられません