本日の朝日新聞

本日の朝刊に立花隆が「小沢一郎は結局、悲劇の政治家として終わらざるをえないのではないか。」という書き出して、小沢はさっさと党首を辞任しろという文章を書いており、その中で小宮山洋子と近藤洋介を褒めている。悲劇かどうかは知らんが、総理になれなかった大物政治家というと床次竹二郎。彼も政友会を割ったりと色々したが、結局張学良からの献金がばれて首相にはなれなかった。上原勇作の腹心の井戸川辰三なんかも彼を熱心に推していたらしいが。
もう一つ別の記事だが、阪神支局襲撃事件に関する週刊新潮報道の検証記事が載っていた。4月1日に合わせたものだろう。故野村秋介氏の周辺をあたって、「そんな奴知らね」という証言を多く引き出している。秦先生の言うところの、職業的詐話師という奴だろうか。

これが国策捜査だ!

渡邊行男『中野正剛自決の謎』より摘要

東條総理 中野一派の問題について政府の態度をはっきりさせたいと思う。議会も明日より開かれる。この際はっきり処置したい。今回、政府は苛烈なる戦争下、これに即応して国内態勢強化を決意せることは御承知の通りである。従ってこれの遂行いかんが戦局に重大なる影響を与えることと信ずる。
私は総理として国政に巨歩を進め、一億民心を中心として十億民衆の結束を企図している。而して今日までなるべく抱擁してきた。今後も然りである。しかしながら、足並みをみだす者は断乎処置することを必要とする。今までは教え導くことを主としてきたが、今日はそれだけではだめである。敗戦の原因の一つは国内の足並みの乱れることである。今回の中野一派の行為は許すべからざるものありと信ずる。
内相、法相も同意されている。この処置に付てはいかにするやを研究致したい。議会に臨む関係上、大麻国務相にもお出をお願いした。

安藤内相 これは二カ月前より研究した問題である。臨時議会がなければ更に広く深く処置したく思う。先に三田村を押えた。行政検束については議会では多少の議論が出ることと思う。しかし強制検束のためには内容が貧弱。これに関連して更に治安上のものを検束せんとした。治安の責任上、自分としては徹底的にやりたい。法相その他と相談の上実行した。いろいろ議論も出て、最近翼政会方面で統制上お困りの事の由、この事は予期していた。しかし内相としての決心には変化はない。ただし内閣全体として政治的に影響あることも考慮し、司法部で強制検束をやられるには吝かではない。
中野・三田村ら個々の問題は大きなものとは思わぬ。私は事件の全貌が恐ろしい。戦争遂行上いかに影響するやを十分考えてやって貰えるなら結構と思う。当面の必要のために一時的にやることは、私としては不同意である。全般的に亘り深刻にやって貰いたい。
議会に臨むため法相より強制検束を願う意思は毛頭ない。私の決心は軽々ではない。中野一派が東条内閣によくないという見地でやったのではない。議会に対しても然りである。

総理 私も同じ見地に立つ。ただし議会は短期である。この小さい問題で論議をやるのは、議会を通じて国民の結束をやりたいと思うことと矛盾する。それでよく考えてやってもらいたい。

岩村法相 行政検束で堂々とやれ。憲法上の議論もあろうが、説明できる。検事総長も同意見である。見通しのある事件ゆえ、内相の意見で通すのがよい。

内相 かりに中野、三田村のみを強制検束すると、十日間で出すことになる。この際、中野、三田村を出すことは内相として責任上出来ぬ。通常議会まで関連性ある調査をやれるかどうか疑問である。従ってまた繰り返すことはどうかと思う。末端まで真剣に取調べをやることが必要。それには意気込みを徹底せしむることが最も大事と思う。

松阪総長 内相の誠心誠意でやられるのは確信している。しかし結論には反対である。議会中、議員の行政検束をやるのは、憲法上、精神的には間違って居ると思う。今の内相ならよいが、政党の争うとき、議会の会期中、行政検束をやって反対党を抑える先例となる虞が大きい。国家永遠のため困ることになろう。でき得れば合法的にやりたい。
私の判断としては相当むずかしい。検挙は至当だが、議会もあることだから、この際は一応出したらよいと思う。行政上の処置をやられるならば、私は口を出しませぬ。三日間尾行をつけてやれば、どれだけ彼等はやれるか。警察力でどうしても抑えられぬとは思えない。彼等はみずからはやらぬ。これに躍らされている者が注意を要するものである。

内相 浅草、早稲田、日比谷において中野が変なことを演説した。なぜこれを抑えぬのかと不審に思っていた。私が内相となり、演説を止めさせたところが座談会をやる。警告したが改めず、ますます乗気となった。天野との往復多く、われわれをナメテいると感ずる。
憲法の規定は犯罪の事実に付て言っている。一方の行政検束は、眼前の必要に迫られての予防の措置である。予防は議会開会中なると然らざるとき等、場所、時期を制限せられていない。従来とも、保護検束はできるのに、なぜ予防検束はできぬか。法が不備でもこれを活かすのは誰か。これを取り扱う者に外ならない。新判決例は法を変えてはおらぬ。いわんや戦時中である。その及ぼす影響等を考えてやることが必要と信ずる。現在の法律は明治三十三年の古いものである。今、虚心坦懐に考えてそう思う。

総長 保護検束は二十四時間以内で、元来は一時的のものである。今日のは少しやり過ぎていると思う。

内相 平時状態でもそれだけやれる。戦時中は特にやる必要があると思う。中野を三日出しても何もやれぬというが、それには反対。仲間にいかなる影響を与えるか。警察に対する不信、内相の威信を落すこととなる。
総理 政府としても内相と同意である。憲法上あの文句があるのは〔議員の会期中不逮捕特権〕、議員をしてその職能をはっきりせしむる為である。従って行政検束は不可であると思う。しかし三田村、中野を釈放するときは、自分が云い、人にも云わせる。然るときは議会が一致してやることを妨害することは明瞭と思う。ある方針の下にこれを抑えるのに、これを離〔放〕すことは威信に関するものと思う。離さずしてうまく持って行く方法はないかと伺いたい。

星野書記官長 戦争中、人心惑乱ということのため見張りを付けておけばよいというけれども、なかなかできぬ。議会の中にも見張りは付けられぬ。

総長 憲法違反とならぬか。他の議員に不安を与えないか。

書記官長
 つまらない事でやれば不安を与えるであろう。

大麻国務相 松阪総長に同意なり。皆は強制検束と思っている。行政検束で抑えているとは思っておらぬ。故にこれを知れば不安となり、必ず議論となろう。一般の議員たちは、中野らに対しては好意をもっていない。そして今日まで政府支持できている。しかるに議員の身分保障が不十分と知れば、反対の心持にならないかと恐れる。
今までうまく行ったのは、議会に対する政府の公正なる態度のために外ならぬ。この場合において、こうしたこととなれば、まことに遺憾といわざるを得ない。

総理 自分もその点を案じておる次第である。いよいよ必要となれば解散の方法も考えないではないが、今まで一億一心となっており、これを進めて十億結束までに進めたい。そこで検事の検束をやって貰えぬか。中野らのやり方は、戦時下、はなはだ困ることである。

法相 予審判事の検束をやる以外に方法はない。国防保安法等によるにしても然り。しかしこれはなかなか急にはいかぬ。

総長 総理の考えはよくわかる。しかし法律上、これはなかなか容易にはできぬ。

総理 私は法を曲げてやれとは言っておらぬ。法の解釈で合法的にやれぬかを伺っているのだ。

総長 それで研究したが、どうもいかぬ。今日、家でもって調べろという指令を出したはずだ。行政上なら内相の思う通りやれる。

法相 三田村も検束の認定がなかなか出来ぬように判断する。

森山法制局長官 人心惑乱、造言蜚語等はすぐ成立しないか。

書記官長 三田村の文書自体が人心惑乱とならないか。

総理 悪質のものが罰金五円くらい、そんな頭でやられると、私の最も恐れる国内を戒厳令下におかざるべからざる状況に立ち入らないか。それでは生産が落ちる。好んでやるまいと思って今日まで苦心してきた。しかし止むを得ねばこれもやらざるを得ぬ。

書記官長 中野の演説の内容のごとき浅薄、しかもこれは造言蜚語、人心惑乱とならぬという。しからば何か罪となるのか。私はかかる判定する人のその頭を恐れる。今の時期はそんな事ではだめである。そして政府は弁明するには秘密を言わねばならぬ。それは出来ぬのは当然である。

総長 私もそのつもりでいる。しかしその限度をいかにするかが問題である。

書記官長 戦争遂行に必要な、これに即応したやり方をせよ。悪いことをしたらやられるぞ、との不安を与えることはよいではないか。

総理 朝鮮の独立委員ができたということを聞いて、第一線の兵がヒヤッとした。東京で暴動が起きたといわれてヒヤッとしたという。以上は第一線の兵が帰り、それより直接聞いたことだ。
軽易と思うことでも第一線の将兵には大なる不安を与えるもので、その事は一考を要す。平時には犯罪にならぬが、戦時にはよく考えてくれ。私は現在の司法部のやり方には不満である。

総長 私は国民に与える影響を恐れるものである。

総理 もちろん、その点は兼ね合いのところだ。法を曲げろとはいわぬ。また必要上どうしても法律を変えろといえば変えるが、しかし頭を切りかえてやって貰いたいと思うのだ。

書記官長 司法官としての良心を失ってはもちろん困る。かくなれば国民は不安となるであろう。しかし時局に対する考え方は変えてくれ。

蒲田警視総監 検事にいろいろ調べたことは送ってはおらぬが、犯罪となることについては信じておる。戒厳令を布く第一歩前の今日、行政検束をやることを許されたい。

総理 国内が一致してやることを対外的に見せたいと思っているのだ。この問題で議会がごたごたしたら困ると思うから、心配している次第である。司法省でやれぬというならば行政検束でやり、これがため議会ががたがたしても仕方ない。これがため政府としては重大なる決心をせねばならぬかも知れぬ。この点は司法大臣としても大きく責任を感じてもらいたい。

総長 許して出したらいけないか。

総理 全般としてはそれは出来ぬ。

内相 現に惑乱さわている市会議員等がある。(警保局長その例を示す)

国務相 検事検束と思っているから、行政検束となっては問題となるだろう。しかし出してはまた大変と思う。

総長 行政検束はこの際妥当でない。強制検束はできぬということが、実を申し上げると全部の意見なのである。

総理 私としての希望は検事から令状を出して貰いたいと思う。それがため準備を十分やってくれ。
なお本日は結論に達せぬようだが、至急研究善処を望む。